ブリタニー 炎情
そもそも情念の人なんだけど、ソロ1stの炎情ぶりが素晴らしい。
アラバマ・シェイクスも素晴らしいんですけど、どうも一本調子の印象が1stであったのは確かで、逸材だけどアラバマでやっていくと単調になりかねない危うさがありました。
ところが2ndで、良い意味での裏切りを成し遂げたのでした。
ロックと南部ソウルとブルースのスクンブル交差点に仁王立ちするような、ボーダーラインを闊歩するサウンドには痺れました。
特にソウルフルな楽曲からブルースへスライドしていくようなハードな楽曲や、アーバンソウルのような洒落っ気のある楽曲をこなす姿に、案外器用なのねと納得。
そのアラバマのvo、ブリタニー・ハワードのソロが抜群に良いです。
インタビューによれば、幼くして亡くなった姉へ捧げたアルバムとのことで、より情念の高まりを感じない訳がありません。
出だしっからアラバマにはなかったリズムのカオスを撒き散らし、バックの演奏がそれなりに凝っているのはアラバマの2ndでも散見されましたが、よりフリーなジャズの要素も感じられ、ロックファンにはとても新鮮に受け止められそうです。
印象的には21世紀モードのアレサ・フランクリンやカーティス・メイフィールド、フィリーソウルとスタックスの融合?そんな印象です。
楽曲もバラエティに富み、大胆に電子音や声にエフェクターをかけたり、ボーカリストとしての挑戦を忘れていないところが素敵です。
欲をいえば、うらびれたライヴハウスでと言いたいところですが、この歌声、パフォーマンスも込みで、アラバマ以上に観たくなりました。
来年のフェスでは結構引っ張りだこになりそうですねえwフジで是非。
この曲は比較的スタンダード。他の曲はもっとアグレッシヴですw
来日直前!Silvia Perez Cruzの謎のアルバム ”Llama"
待ちに待ったシルビア・ペレス・クルスの再来日公演。
スペイン・カタルーニャ地方が生んだ至宝。
ファドやジャズ、ポップスなどなどあらゆるジャンルを飲み込む素晴らしい歌い手であるのは、ファンならお分かりでしょう。
そんな彼女のバイオグラフィーに一点、不思議な作品があります。
ハングドラム(以後、ハンドラジャケ)がジャケットになったアルバムとちょっといちゃついている感が強い白黒の二人のジャケット(以後、いちゃジャケ)の2枚。
シルビアとイスラエルのハングドラム奏者のRavid Goldschmidtの共演作で、共にタイトルは「Llama」w
ハンドラジャケが2006年リリース。いちゃジャケが2011年にリリースされたリマスター盤?となっているように思われます。
結構前から流通が少なくプレミアがついていたハンドラジャケは聞きたくても聞けない一枚として、ずっとアマゾンなどで見張りをする日々が続いていました。
そんな中、初来日公演の時のグッズ販売のところで見つけたのが、いちゃジャケw
スタッフの話だと「既に稀少盤で、これを最後に廃盤になる」と言われたので即購入を決めたのでした。
ところが、購入後に調べてみるとハンドラジャケといちゃジャケの曲目が全く違う。
かぶっているのは1曲のみ。
ようやく入手した「Llama」のはずが、結局ハンドラジャケを継続して追い求めなければならないことが判明してしまいました。
その後、アマゾンでリーズナブルな値段でハンドラジャケを入手出来たのはラッキーだったとしか言いようがありません。
では、なぜこの作品が入手困難になってしまったのか?更にいえば、なぜ2種類ある上に曲目も全く違うのか?
ファンとしては妄想しないではいられません。
まず思ったのが、いちゃつく二人がアツアツの時期に勢いで作った一枚で、その後破局、シルビアも黒歴史的な一枚になってしまっていると言う下世話な憶測。
もう一つは、シルビアとしても納得のいかない一枚で、キャリアから外したいと思っているため、闇に葬ろうとしていると言うありがちな憶測。
確かに作品としての完成度は高いとはいえません。少しばかりハングドラムの比重が高く、シルビアの歌唱を堪能するには物足りない内容とも言えるでしょう。
しかも、ハンドラジャケはインストも多く、期待を少々下回る出来栄えと思います。
ただ、このような変種はファンとしては大好物。
シルビアがどういう思いでこの作品を作り、今振り返るのか?どのような理由でこの作品を廃盤にまでしようとしているのか?
ちょっとファンとしては出来栄えとは別に、変に好奇心をくすぐられる作品です。
無駄を無駄にしない 渋大祭
すみません、しばらく間が空いてしまいました。
子供に病気うつされたり、台湾へ行ったりと忙しない日々に奔走してました。
さて、日本が誇るジャズ民族集団渋さ知らズの30周年記念「渋大祭」に行ってきました。
色々なご縁があって、渋さ知らズとは長い付き合いなのですが、今回のお祭りは特別です。
サン・ラ アーケストラ、ザゼンボーイズ、クラムボン、渋谷毅オーケストラ、スガダイロートリオ、中村佳穂、ROVOなど、腕利きが勢ぞろいした濃密なメンツが首を揃えて渋さを祝うというゴージャスなイベントに行かずにはいられませんでしたw
そもそも渋さのライヴ自体が祝祭なのです。
渋さのライヴこそ「旋律の下に皆が集まる祝祭の空間」だと信じている一ファンなので、渋さを祝うというのは「祝祭を祝う祝宴」って、どんだけ祝うんだよwというような妙な感じさえします。
ステージには懐かしいメンバーもいたり、感無量でした。
初めて渋さを見た時、そのいなせなサックスソロにノックアウトされた早坂沙知、大沼ブルースの不穏な雰囲気を醸し出すオルガンソロが大好きだった渋谷毅、「犬姫」の超ロングなピアノソロが強烈だったスガダイロー、背後には勿論御大片山広明の姿もw
芸達者な腕利きが揃いに揃っても、やっぱり現役渋さメンバーが光り輝くのも渋さの良いところ。
日々渋さの旋律の下、グルーヴを作り出している面々の現役感にベテランの名演も交わり、混沌としたグルーヴが益々進化していく展開は、やはり渋さの真骨頂。
ラストはサンバダンサーがステージに並び、肝心の渋さが全く見えなくなるという謎の展開も渋さらしいし、ステージ横でずっと腰をくねらせる看護婦姿のおじいちゃんがいるのも渋さらしい。
なんだろう、無駄なことを無駄にしない渋さの魅力。
なんでもかんでも効率を追い求める窮屈な現代に、渋さの無駄だらけだからこそ醸し出される祝祭の空気に涙が出そうになることがあります。
誰も空気を読まない。ただ「今ここにいること」の喜びを本能のまま曝け出して祝う。
それがサンバダンサーだったり、おじちゃんだったり、バナナを持ったお姉ちゃんだったり、乳房知らズだったり、竜だったり、なんでもあり。
でも、そこに妙な勘ぐりも打算も摩擦もなく、あるがままに受け入れられる空間。
それが祝祭の場であり、渋さ知らズという場なのではないでしょうか?
その居心地の良さに痺れっぱなしでした。
渋さ知らズ、30周年おめでとうございます!
変わらずに変わっていく B・ホーンズビー「Absolute Zero」
何回か言っていますが、B・ホーンスビーは一発屋のイメージがあります。
日本で言うと「愛は勝つ」のKANのイメージでしょうか。
ところが、ブルースはその後、Greatful Deadに加入したり、独自の路線を進み、およそパブリックイメージとは逆のノイズメーカーズというバックバンドを付けてライヴバンドとして独自の位置を確立します。
噂ではデッドヘッズも足繁く通う、ライヴバンドになっているとか。
その雑食性は凄まじく、従来のアメリカーナ的なスタイルだけでなく、ザッパ?と思うようなホーンアレンジや、アイリッシュトラッド的なアプローチ、ブルーグラス、ジャズなど、ボーダレスな音楽性は大きな魅力になっています。
彼の新作は、さらにその冒険心を加速させた快作でしょう。
今大注目のy-musicやJ・ヴァーノンをゲストに迎え、アメリカーナ的なスタイルを崩すことなく、インディクラシックや現代音楽の要素を大胆に取り込んだり、アレンジをミニマルミュージックのようなアレンジにしてみたり、意欲的な作品になっている。
保守的なファンは反発するかもしれませんが、新しいファンを獲得する力のある作品でしょう。
ポール・サイモンの新作にも通じる大胆さは、今のアメリカーナシーンの流れを象徴しているのかもしれない。
B・ホーンスビーは日本では全く人気がないけれど、一歩間違えば新しいジャズで語られてもいいくらい洗練されていて、意欲的な作品を次々とリリースしてます。
特に「Here Come the Noise Makers」「Bride Of The Noisemakers」は、まずは彼らの魅力を知るのにうってつけの聞いてもらいたい実況録音盤です。
彼らの音楽は決して一つのスタイルに留まらず、多様な音楽をフラットに咀嚼してミックスしていく、アメリカのノーボーダーの良さを証明する好事例の一つです。
興味があれば是非。
フジロック2019 寸評 裏ベストはブルースブッチャーズ
今年のフジロックは、初日に見たいアーティストが集中。
2日間にしようかと思ったら、大本命のキュアーが最終日ということで、3日間参加になったのもある。
キュアーは別格として、本命ベストはジャネール・モネイだったと思う渋さチビズや中村佳穂、オリジナルラブ、クラムボン、MITSKIあたりが妥当な線か。
ただ、正に裏ベストと言って良いくらいに痛快だったのがアバロンでやったブルースブッチャーズ feat うつみようこ。
ブルースやジャズやソウルがごちゃごちゃに絡み合ったジャンルレスなブラックアメリカンミュージック。そういうのが大好きな人間にとっては、最上の演奏。
ブルースハープはサックスに負けやしない!と豪語するような迫力満点のブルハに渋いスライドギター、リズム隊はがっつりリズムをキープし、グルーヴを絞り出す。
そこにうつみようこと永井隆の間違いないボーカルが絡めば最上のブルースロックの演奏が出来上がる。
もう予想外なことがないくらいに鉄板のナイスな演奏w
とにかく盛り上がり方が半端なくて、いつまででも聞いていたい痛快な演奏だった。
目新しさはないし、相も変わらぬ演奏といえば演奏なんだけど、だからこそスルメのように時が経てば経つほどに味わい深い。
こういうバンドがしっかり出て、良い演奏をしている間はフジロックは安泰なんじゃないかなんて思ったりする。最高でしたw
フジロック2019 寸評 きっぷが良い男 オリジナルラブ
思えば、渋谷系の三巨頭といえば、フリッパーズ、ピチカート、そして、オリジナルラブでした。
ただ、ニューウェイヴ、ネオアコの匂いを残すフリッパーズとピチカートに比べて、オリジナルラブはいち早くジャズやソウルの方へシフトしていました。
そのせいか、人気の面でも早い段階で失速と言うか固定してしまっていたと思います。
ちょっとマニアックというか真にボーダレスだったのはオリジナルラブでした。
そして、今のリズム重視のスウィートソウル、ミディアムファンクがヒップホップの延長でのトレンドとするならば、オリジナルラブはジャストミートなタイミングでのフジロック出演とも言えます。
かなり期待して望んだけれど、期待以上。パッキパキにキレのある演奏に田島貴男の強すぎるボーカルが乗っかって極上のパフォーマンスでした。
パンピーも飛び入りして若干暴走気味の演奏は痛快の一言に尽きます。
「月の裏側〜」「接吻」を文脈に関係なく、惜しげもなく披露するサービス精神と言う無邪気さ全開なところも田島の面目躍如w
ガハガハ笑いながら存分に演奏を楽しむ田島の姿が、いかにも彼らしい。
この底抜けの無邪気さと音楽愛。
これこそオリジナルラブの真骨頂と言えるのではないでしょうか。
ジャジーだろうが、ソウルフルだろうが、そこにジャンルはなくて、田島貴男が純粋に格好良い音楽を演奏する。
それがオリジナルラブ。
惚れ直しました。
フジロック2019 寸評 一人じゃないって素敵なことね 七尾旅人
七尾旅人のライヴは何度も見てるけれど、バンドは初めて。
山本達久も参加しており、バンドでの演奏はどうなんだろう?と期待半分、不安半分だったのは確かです。
何せ弾き語りの時の七尾旅人の自由奔放さは過激でもあり、それが魅力でもあるからこそ、バンドではどうなるんだろう?と想像がつかないものでした。
結論からいうと、予想通りと言う感じ。
バンド形態の新作からが多い中、ローリンローリンとサーカスナイトを演奏。
魅力的ではあったけれど、ソロの自由さと果てしない感じがなく、むしろこじんまりしてしまった印象がありました。
長年夢だったと言うバンドでの演奏は、むしろ本人を縛りつけてしまう感じがあって、魅力的な寄り道やインプロ、サンプラーを駆使した想像破壊的wな超絶ソロプレイがないのは寂しい。
本人もそのギクシャク感は自覚しているようで、どうにも無邪気に笑ったりすることなく奥歯に何か挟まったような口調が多かったように思います。
ソロもやりつつ、時々バンドがいいのでしょう。
その時は、七尾旅人の荒唐無稽な振る舞いをがっちり受け止めてくれるベテラン達で固めるのがいいんじゃないかとw