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これは貴重な映像になる! パンチブラザーズ「ハウ・トゥ・グロウ・ア・バンド」

オルタナカントリー

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ディランがエレクトリックでライブを行った時に「ユダ!(裏切り者)」とファンから非難されたのは、もはやロック史上の事件として知られています。

偉大なアーティストの大変革は、時に聴衆の激しい非難を浴びます。

その大変革は時代がゆっくりと審判を下すのが世の常。そして、大概は失敗を恐れず、変化を求めた者が正しいことが証明されるようです。

なぜなら、変化を促すには大きな信念や力が必要だからでしょう。

パンチブラザーズのドキュメンタリー「ハウ・トゥ〜」は、そう言った変革の決定的な瞬間を切り取った貴重な映像となるでしょう。

天才クリス・シーリがニッケル・クリークを解散し、その音楽的な挑戦をパンチブラザーズで果たそうとする初期の段階を見事に捉えた記録で、クリスの苦悩やメンバーの戸惑いが描かれ、最終的にパンチブラザーズがクリスの才能を燃料に見事にヤマを越えていく様が描かれています。

何より、クリスがブルーグラスという旧態然としたジャンルの壁を越えようと足掻く様が感動的です。

もしかすると、クリス・シーリは21世紀の、そしてブルーグラス界のフランク・ザッパのような存在になるのではないか?とさえ思いました。

ジャンルを超え、あらゆるジャンルを飲み込み、その底なしの懐であらゆるジャンルを「音楽」という括りに書き換え、すべてを表現してみせる稀有な存在に思えたのです。

弦楽五重奏「The Blind Leaving The Blind」組曲をライヴで披露する時の映像には、ちょっと驚きました。クリスが緊張し、揺らいでいる様が赤裸々に撮られています。

クリスにとって非常に大きな挑戦であることが観ている側にも十二分に伝わってきます。

よもやパンチブラザーズがブルーグラスというジャンルから大きく羽ばたこうとする歴史的瞬間が観れるとは思いませんでした。

そんな貴重な映像が、本作の大きな山場として序盤に出てきたので不意を突かれました。

本作のファーストシーンのクリスの激しいソロプレイを見れば、パンチブラザーズがブルーグラスというジャンルの枠に囚われていないことが、一発で分かります。

この映画は、パンチがブルーグラスを大きく逸脱し、変えていくだろう事を前提で作られており、監督の意図がはじめから歴史的転換の瞬間を撮ろうとしていることが分かります。

パンチ来日公演が「事件」だと断言してきた者としては、監督の気持ちがよくわかる。

クリス・シーリの演奏、パンチのライヴを見れば、ただごとではないことは形にはなっていなくとも、多少なりとも音楽的感受性の鋭い人であれば確信できて当然です。

そう言った意味で、パンチの来日公演とこの作品のリリースは、極東の国日本では、やはり事件だったのでしょう。

この先、時代がゆっくりとクリス率いるパンチブラザーズに審判を下すのを待つだけ。

この作品を見て私は、確実に時代はパンチブラザーズに微笑むだろうと確信を強めました。こんなにワクワクするのは久しぶりです。