懐底なし沼の才人  〜Paul Simonの底なし沼〜

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ワールドミュージック系の方々へのちょっとした不信感があるとすれば、それは多様性を求めてWMへ傾倒していった筈が、いつの間にやらWM崇拝という狭い枠に固執するのが本末転倒のように見えるからかもしれません。

よりマニアックに音楽を求め、うるさ方になりたい気持ちもわからんではないけれど、どうもそういったジャンルに固執してしまうのは個人的に抵抗を感じてしまう。

そういった観点から最近とみに偉大だなあ…と思うのは、D・バーンとP・サイモンの二人だったりします。

この二人の音楽に対する探究心と柔軟性は、聞けば聴くほどに感心します。

二人ともベースとしてロックやフォークがあって、WMにはまりこんだり、ファンクへ行ったり、ジャズっぽいものやテクノめいたものにも行く。でも、不意にベースとなるジャンルに戻ってきて、音楽の冒険の進化を手土産に良作を生み出します。

S・ジャローズがP・サイモンをカヴァーしているのを聞いて、ふと思ったのです。

アメリカンミュージック再考があるとすれば、その核にはディランやN・ヤングなどがいるんだろうけど、P・サイモンは音楽のスクランブル交差点のようなアメリカという国の音楽を考える上では最重要人物の一人なんじゃないかとw

「P・サイモンのジャンルを横断するのは当たり前のように思えたけれど、相当すごいことだ!」と改めて思い、過去のアルバムを振り返ってみました。

元を正せば「コンドルは飛んでいく」はペルー、「スカボローフェア」はスコットランド民謡、「グレイスランド」のアフリカ、他にもプエルトリコなど様々な国の音楽をシレッと取り上げ、サイモン節に仕立てあげてしまいます。

その咀嚼と消化の仕方が、あまりにも自然体過ぎて、凄さが全然わからない。

でも、ふとキャリアを振り返ってみれば、そこには膨大な音楽探求の足跡が見て取れるのがサイモンの本当に凄いところでしょう。

本作は、彼のセルフカヴァー集です。

ですが、その参加メンバーをみると、サイモンの未だ衰えぬ冒険心が見て取れます。

ビル・フリーゼル、ジャック・ディジョネット、スティーヴ・ガット、ウィントン・マルサリス、そしてy-music!

今この集団を注目しておいて損はないと断言できるのがy-musicで、このタイミングで持ってくるあたりが、サイモンの探究心のなせる技としか言いようがありません。

このグループ、正に今もっとも輝いていると言ってもよくて、この後もB・ホーンスビーの作品への参加などワクワクさせてくれる活動を継続中。

そんな注目株を引き連れるサイモンは、ライヴ活動に終止符を打ちましたが、未だミュージシャンをやめるつもりはサラサラないようで、この作品での懐の広さにはもはやため息しか漏れません。

y-musicを交えたクラシカルな雰囲気の漂う曲からジャズのムードが漂う曲。勿論サイモンらしいフォーク系の曲もあります。様々な国の音楽が正にごちゃまぜ状態です。

個人的には盛り上がりところだった「HOW THE HEART APPROACHES WHAT IT YEARNS」はウィントンのトランペットが冴えまくり、ネイト・スミスの締まったドラムが心地よく、サリバン・フォートナーのピアノが見事に舞っています。

それに続くセカンドラインの演奏が軽妙な「PIGS,SHEEP AND WOLVES」への流れなどそんじょそこらの若造にはできませんって!

録音状態も最高で、私はアナログで購入しましたが、アナログ映えしてます。

ダウンロードコードも付いてます。正直買わんでどうする?と思える出来栄えです。