SPY BOY/Emmylou Harris
オルタナカントリーを考察するにあたって、一つの起点にしているのが、エミルーの傑作「レッキングボール」。
カントリーの女帝がロックというジャンルに真っ向から挑んだ傑作でしょう。
ダニエル・ラノアという当時「時の人」だったプロデューサーを招いて作った作品は、意図的にカントリーやブルーグラス色を薄め、新しい世代の音を導入したものでした。
このアルバムで、その名を一層広めたアーティストとしてルシンダ・ウィリアムスやスティーヴ・アール、ギリアン・ウェルチなどがいます。
現在オルタナカントリーの名手、ベテランと言われている彼らが、この作品に曲を取り上げられ、今も活躍しているのは偶然ではないでしょう。
その問題作であり、傑作のリリース後のツアーの記録が、この「スパイボーイ」。
名手バディ・ミラーや、ブレイディ・ブレイド(ブライアン・ブレイドの弟)をバックにしたツアーが一体どういうものだったのか、正直興味津々。
しかし、ここは保守的なカントリーというジャンルのせいか、往年のファンに十二分に配慮した選曲アレンジになっている。
勿論、挑発的ともとれる楽曲もあるが、その合間合間にグラム・パーソンズの曲や、エミルーの従来のカントリーが差し挟まれている。
当時の「レッキングボール」が、カントリーシーンでどのような作品だったかが、想像出来る。
名バイプレイヤー、バディ・ミラーのギターが良い。時にシンプルに、時にアグレッシヴに、縦横無尽で女帝をサポートする名演は飽きることがない。
「レッキングボール」の過激さを期待するとガッカリするかもしれない。ただ、従来の路線の曲も美しく、それと対をなすからこそ「レッキングボール」が光るのも確か。
そういったフラットな視線で、この作品を聴くと、もっと広い視点で音と接することが出来る気がします。
あくまでも「レッキングボール」を踏まえた上で鑑賞するべき作品か。