Not All Who Wander Are Lost / Chris Thile
2001年、クリス若干21歳の時にリリースした作品。
一聴してクリスのマンドリンの爽快な響きにドキッとさせられます。
そして、バックにベラ・フレックやJ・ダグラス、エドガー・マイヤーなどが名を連ね、今に続くクリスの異種格闘技戦の始まりが、この作品にあることを教えてくれます。
先頃のパンチブラザーズ初来日公演の衝撃は、各音楽メディアでもブルーグラスのバンドとしては破格の扱いを受けましたが、「ブルーグラスではない」と言う主張は、少々的外れでしょう。
ライヴで印象に残ったのは、クリスがブルーグラスという音楽を愛していること。
愛しているが故に、ブルーグラスをアップデートしなければならないことを痛切に感じているのだということがライヴから伝わってきた筈です。
だからこそ、この作品がクリスのターニングポイントになった重要な作品だと改めて思わせられます。
クリス同様、ベラはブルーグラスに新しい血を混入しようとしているアーティストであり、ベラはどちらかというとジャズからのアプローチが見て取れます。
本作⑦などはベラっぽさを感じてしまいます。
しかし、作品全体から受ける印象はクリスのブルーグラスでやれることをやること。そして、それを超えて行こうとする強い意志です。
この作品に惹きつけられるのは、クリスのアーティストとしてのブルーグラスへの強い愛情と美意識だと思います。
あくまでも足場はブルーグラスにある。ある種のクリスのブルーグラス作品の集大成的な意味合いのある作品だと、どうしても思える作品ですね。
全曲インスト。クリスの声が恋しくもありますが、それ以上にクリスのマンドリンの美しい響きは、パンチでは後退しているだけにじっくり聴きたいものです。
振り返ってみれば(2016年)、この作品はマンドリン奏者クリス・シーリの集大成。
この後、新しいエピソードが始まり、そのエピソードはブルーグラスを踏襲しつつ、それを越えようとするクリスの果敢なる挑戦の試行錯誤と達成の章となっているのだと思います。