Silvia Perez Cruz 正真正銘 純度100%の歌い手

よもやの、まさかの、ファンだった人の口から出るのは、そんな言葉ばかりでした。

シルビア・ペレス・クルスの来日公演は、スペイン国交150周年の記念行事の一環での来日。想像でしかありませんが、恐らく本国での人気と日本での人気のギャップから考えるに、今回のツアーのように弦楽五重奏楽団を引き連れての豪華な公演は不可能だったと思われます。

そう考えると、ブルーノートで1セット8000円は、バックのメンツも考えると破格の値段と言えるかもしれません。

とにもかくにも、ファンにとっては想定の範囲外、予想だにしなかった来日公演は、最新作の変則的弦楽五重奏をバックにした豪華な布陣での来日となりました。

新作の選曲は、はじめ見た時、既発曲ばかりで表現するものが枯渇しているのでは?などと不謹慎なことを思ってしまいましたが、今回の公演を見て全て吹っ飛びました。

大袈裟でもなんでもなく、今回の来日公演は、生涯ベストに必ず入る圧巻のステージでした。

バックの弦楽五重奏とのシンクロの仕方が半端なく、もちろん彼女の歌声は圧倒的で、完璧な歌を披露しながら、その右手で五重奏をコンダクトすると言う恐ろしい才女ぶりを見せつけ、彼女の歌声と五重奏とライティングと曲に合わせた演出が、驚くべき高水準で繰り広げられる驚愕のパフォーマンスでした。

弦楽五重奏がスコアなしで、シルビアの右手一本で自在に音を操り、しかも即興的な演奏を織り交ぜながら演奏する姿は、ちょっと未知のレベルの演奏でした。

そして、何より素晴らしかったのは、曲ごとに身にまとう雰囲気を変幻自在に変えるシャンソンやファドの歌い手のようなシルビアのパフォーマンス。

陽気な歌を披露した後、ちょっとした曲紹介を終えて、フッと次の曲に入る時、一瞬にしてステージの空気が一変し、全く違う悲哀に溢れた曲に合う空気に変えてしまう。

その圧倒的な存在感には、約1時間20分のステージで何度も鳥肌が立った程です。

「歌で感情を歌う」

来日公演前日のスペイン国立文化センターでの講演会でシルビアが語っていた通りのパフォーマンスを完璧に遂行する姿に戦慄さえ覚えました。

彼女のレパートリーの一つ、L・コーエンの「ハレルヤ」を披露する時、長い髪を静かに束ね、後ろでまとめただけで、あっという間に彼女の「ハレルヤ」を歌う場が立ち上がる、その瞬間の崇高さときたら、大袈裟ではなく一本の映画を見ているような、そんな凄まじさがありました。

彼女のバックグラウンドにある、スペインのフラメンコ、ポルトガルのファド、ジャズ、キューバのジャズ、メキシコ、そして中近東あたりのグルーヴ。

あらゆるものが渾然一体となった彼女の声が、恐ろしい表現力を持って発せられていました。

始まって二曲目あたりで「これはヤバいやつだ」と確信するようなパフォーマンス。

終演までずっと滅多にお目にかかれないものを見た感でいっぱいでした。

もちろん、彼女のオーソドックスなギターによる演奏をみたいと言う欲望もあるにはありましたが、そんな欲張りな発想を吹き飛ばす圧巻のステージ。(実は講演会で、シルビアの弾き語りも見れたのですがw)

生涯忘れられない一夜になったのは言うまでもありません。

 

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