ディランより偉いかもしれない ジョニ・ミッチェル「シャイン」(Joni mitchel "Shine")
ここ数年、ボブ・ディランの周辺は話題豊富で熱かったと言わざる得ません。
極め付けはノーベル平和賞で、誰もが驚き、ディランの偉大さに感嘆しました。
ただ、個人的には何度目かの絶頂期と言われるディランの最新作を聞くのさえためらわれるのが常だし、今も変わりません。
自分の中で最高のロックンロールアルバムは「追憶のハイウェイ61」と断言しているにも関わらず、やっぱり声の衰えや全盛期との乖離を考えると、そう思わずにはいられないのが本音です。
比べるものではないのですが、ディランの凄さを語る人の話を聞く度に、むしろジョニ・ミッチェルの方が凄いと思う自分がいるのです。
(世間一般が言う)ディランの代表作が「追憶のハイウェイ」だとすれば、ジョニの代表作はおそらく「ブルー」でしょう。
私もやはり「ブルー」をあげていました。その鮮烈な印象、強いキャラクター、「ブルー」は何度聞いても飽きない名盤の風格があります。
長年私にとっても、「ブルー」は最も愛するジョニのアルバムでした。
ところが、2007年にリリースされた「シャイン」に圧倒されてしまったのです。
もうしょっぱなから魅了されました。
後期ジョニのフュージョンぽさを感じつつ、躍動感のあるピアノと美しく、響き渡るソプラノサックスの音が持つ圧倒的な幸福感や迫力。
傑作ライブ「Shadows&Lights」から続く揺るぎのないジョニの美意識。
そして、ジョニの衰えるどころか魅力を増したボーカル。全編通して素晴らしい。
楽曲ももちろん素晴らしいのですが、それ以上に音が素晴らしかった。
ミシェル・ペトルチアーニのソロライヴと同等、いやそれ以上のメロディを忘れて音にだけ聞き入ってしまう録音状態。
音が跳ね、飛び回り、光り輝いているように思えました。
晩年を迎えたジョニの代表作の更新。これはとんでもないと思いました。
前作で引退宣言を出していたジョニが、5年ぶりにリリースした本作ですが、そこでこのような生命力あふれる作品を作れるジョニの凄みに圧倒されたものです。
そんな「シャイン」が初アナログ化と聞けば、聞かずにはいられません。(確かリリース時はスタバのレーベルからCDでリリースされたはずです)
アナログの出来栄えは?とワクワクしたのですが、これがCDの音質を超えていませんでした。いや、むしろCDの方がいいかもしれません。
圧倒的なバックの演奏に比重が行き過ぎていて、ジョニの音がこもってしまっているように思えるのと、ギターとサックスの音が前に前に出過ぎていてバランスが悪いように思えます。
リマスターをある種の批評と考えるならば、素晴らしいフレーズ、演奏を聞かせてくれるギターとサックスにスポットを当てるのは見当違いではないのですが、残念ながら全体的な音のバランスが崩れてしまっているように思えます。
とはいえ、改めてこの「シャイン」を聞くとジョニ・ミッチェルの偉大さを痛感します。
今もって色褪せない作品のクオリティ。
ご本人には失礼かもしれませんが、おそらくスタジオ録音としてはラストアルバムになるかもしれない本作が、ここまで生命力あふれる美しい作品であるとは。
今もって「輝き続ける名盤」です。
晩年近くのためにスルーしている人も多いにちがいない本作。未聴の方は是非。
アルバムのオープニングをここで。至福感あふれる幕開けをどうぞ。