sarah jarosz / song up in her headを改めて聞いてみた
サラ・ジャローズの1stアルバム「Song Up In Her Head」は、タイトル曲で幕を開けます。
言ってみれば、ご挨拶。そして、今まで大事に温めてきた自身の世界観や音楽観を満を持して披露する場でもあります。
1stアルバムの幕開けの曲は、彼女の思いが凝縮された曲と言っても良いし、ましてやタイトル曲ともなれば、サラ・ジャローズの初心や理想の音楽、彼女のアーティストとしての指針などが全て詰め込まれていると言われてもおかしくない訳です。
そういう意味でもキャリアの中で重要かつ象徴となる曲と言っても良いでしょう。
そして、天才サラ・ジャローズは、そのご挨拶をパーフェクト以上にこなしていることが分かります。
何よりバックを務める猛者たち。
ジェリー・ダグラス、クリス・シーリ、ダレル・スコットというストリングスの極め人たちでガッチリ固めつつも、彼女が物怖じもせず貫禄たっぷりに歌い上げているのに驚くばかりです。
ジェリーやクリスのグルーヴィーなストリングスプレイが錯綜する素晴らしいバックトラックを背に、新人らしからぬ歌声でサラはしっかり歌を支えています。
特にジェリー・ダグラスのスライドとクリスのマンドリンのスリリングな掛け合いときたら下手をすれば歌を忘れさせてしまいかねない迫力なのに、決して負けてない。
ハスキーなサラのボーカリストとしての才能が光る一曲に仕上がっています。
既にして大物の貫禄たっぷり。この時点で彼女がタナカンシーンを背負って立つ存在になる予感はマックスに達しています。
しかも、その後もアビゲイル・ウォッシュバーン、ベン・ソリー、ティム・オブライエンなどが入れ替わり立ち代りで彼女のバックをガッチリ固めます。
彼女のキャリアを時期尚早と分かっていながら振り返ってみると、最早タナカンシーンのトップにいずれ立つのは間違いないと確信させられます。
個人的に敬愛するギリアン・ウェルチでさえ、サラの才能を持ってすれば凌駕するとさえ、今は思っています。
ギリアンが不器用さを武器に独自の世界観を確立しているのに対して、サラは完璧にカントリーやブルーグラスの伝統を掌握した上で破壊し、再構成させている。
ピアソラレベルの破壊者にして創造主になれるだけの素質を持っていると言わざる得ない。そして、その境地にいてシーンを牽引していける逸材は、サラとクリス・シーリーくらいしか考えられないと思うのです。
今改めて聞いてみれば、彼女の底知れぬ才能は、1stアルバムにして早くも花開いており、この後の早熟としか言いようのない成長を遂げる兆候が至る所に見られます。
これを読んで少しでもサラに興味を持ったなら、1stから聞くことをお勧めします。
彼女のキャリアは1stで既に完成されています。
青臭さなど無縁と思える完成度に、聞き手はただただ驚くばかりです。
fujirock 2016 今年の夏、最も静かなヘッドライナー sigur ros
「孤独とは一人の時ではなく、大勢の人に囲まれている時に感じるものだ。」
とある人の言葉です。
sigur rosの音を聞いていると、この言葉を静謐に変えると、偶然ではありますが、ピッタリ当てはまるように思えてきます。
「静謐とは一人の時ではなく、大勢の人に囲まれている時に感じるものだ。」
シガーロスの音に静謐を感じるのはなぜだろう?
それなりの爆音を鳴らしているのに、静謐さを感じるのは100%矛盾しているのではないでしょうか?
とはいえ、シガーロスにある種の荘厳さや静謐さを感じる人も多いでしょう。
ましてや、今回はジェイムス・ブレイクからシガーロスという流れです。
クライマックスを迎えるグリーンは、異様な静けさを感じる空間になってもおかしくありません。
ジェイムス・ブレイクは初出演の際、ホワイトのトリを務め、一種異様な音空間を出現させました。
ホワイトでも指折りの音響の良さもあって、低音がビシビシ体に突き刺さるようでもあり、野外と言うのを忘れてしまいそうな内省的なライヴだったのを覚えています。
個人的な印象としてはネオアコのダブバージョンのような、そんな美しくも一種ゆがんだ空間で圧巻の一言に尽きました。
新作は未聴とはいえ、その流れからのシガーロス。
この流れは、グリーンのあの大きな空間をどのように空気に染め上げるのか、ちょっと興味があります。
最新(今年の6月)スペインのフェスの映像を見てみましょう。
「festival」でさえ、ちょっとヘヴィな展開になっています。
かなりアグレッシヴでヘヴィな印象で、盛り上がるでしょうが、この攻めがフェスの場でどう作用するか、いささか不安を感じてしまいそうです。低音がビシビシ効いてますしw。
シガーロスにしてはヘヴィなサウンドにシフトしているのが分かります。
2013年の「kveikur」と同一線上にある路線でしょうか?
この流れだとフェスにしては、かなり重い空気が立ち込める可能性もありますねw
個人的には、もう何度見たか分からないこのライヴ映像のようなシガーロスを期待してましたが、今回のツアーでこのようなピースフルな展開は望めないようですw
ヨンシーは、現時点でビジュアル、サウンド、世界観で言えば指折りのアーティストだけに、いつまでも同じ地点に居座るようなアーティストではないのは承知の上。
彼がどんな新しいサウンドビジョンを見せてくれるか、楽しみにして損はない筈です。
さてさて、どのような姿を見せてくれるか楽しみです。
fujirock 2016 電気グルーヴのクロージングが待ち遠しい!
電気グルーヴがクロージング。
当初、ヘッドライナーを当てはめて考えるとウィルコがクロージングもある?と密かに期待していたが、蓋を開けてみたら電気グルーヴだった。
ウィルコにはガッツリやってもらいたかったが、電気がクロージングなら文句なしと言ったところでしょうか。
上がりますねw
電気グルーヴの魅力なんて、今更説明することもないでしょう。
日本にテクノポップではなく、現在進行形のテクノを根付かせた功労者にしてイノヴェーター。
ここ十数年の国内テクノ事情を語る上で、電気グルーヴ抜きに語ることは絶対できないでしょう。
そして、テクノアーティストとしてだけでなく、お笑いアーティストとしても国内トップクラスなのは間違いなしですw
この二人より面白くない芸人は沢山います。真面目な話、電気より面白い、もしくは同等のお笑い芸人を数えた方が絶対に早い。
と、ありきたりな紹介をしたところで仕方がありません。
長年電気を聞いていて、いつも自分が電気を聴く上で常に意識していた事が二つあります。
この二点こそが電気が長年テクノシーンのトップに君臨した大きな要素だと確信しています。
一つ目はリズム。
電気のリズムが他のテクノ系アーティストより図抜けて良いのは、結構無意識に感じている人は多いでしょう。
あの日本のジャズドラムを代表する村上”ポン太”秀一をして、「このバンドはリズムが良い」と言わしめたほどです。
しかも、いわゆる四つ打ちだけでなく、様々なリズムを取り入れたり、鳴り物系、ギターリフなども貪欲に取り入れている。
その片鱗は、石野卓球のDJやリスナーとしての守備範囲の広さからも垣間見ることができます。
石野卓球のDJで、時折意外過ぎるサンプリングがされて驚くことがあります。ニルヴァーナから山下達郎まで。「え?これを回すの?」と驚くことがままあり、それが相当盛り上がったりします。
様々な音楽にも耳を傾けているのは明らかで、フィッシュマンズやソウルフラワーユニオン、それ以外にも七尾旅人や岡村靖幸などと共演したりと、そのセレクトは確かなものを感じます。
テクノ狂いのイメージが強いですが、かなりジャンルを横断して聞いていることは電気の楽曲の多様なリズムからも窺い知れます。
そして二つ目。
石野卓球の発言で頭から離れないのは、「テクノの魅力を教えてください」という質問に対しての答えでした。
「かかっている曲の一番好きな音が繰り返し鳴っていたらドンドン上がっていく」というのが答えでした。
例えば曲の中でゴムを擦るような音が気に入ったら、その気に入った音を追っかけていくだけでドンドン盛り上がれるんだという意味でした。
これは興味深い答えでした。
サビが良いとか、そういう聞き方ではなく、気に入った音を執拗に追うという聴き方。
これは今まで自分にはなかった聴き方でした。
例えば電気の曲で言えば代表曲の一つ「虹」が分かりやすいでしょう。
繰り返されるのは「ゆっくり消える虹みたく~」というフレーズ、「て~てて~て~て~」という電子音、ずっと鳴るクリック音のような音。これらが何度も繰り返される。
これのどれかが異常に気に入ったなら、それをなぞっていくように曲を聴くと徐々に上がっていく。
その音が転調したり、トーンを上げたり、歪んだりするのを追いかけることで、音の中での時間感覚が歪んでいくような快感。
石野卓球がそのような意味で本当に言ったかどうかは定かではありませんがw、少なくとも僕は、その聴き方で何倍も電気の音楽を楽しめるようになりました。
テクノにおいては、サビとか印象的なフレーズだけでなく、一つの音が曲を楽しむきっかけになると知ってテクノが何倍も楽しくなります。
例えばイーノも認める天才ジョン・ホプキンスの名曲のこれはどうでしょう?ショートバージョンですが、こちらをどうぞ。
繰り返される音が歪んだり、音を高くなったり低くなったりすることで、何か感情が揺さぶられませんか?
この音の歪みや変化が醸し出す効果はテクノの大きな魅力だと思っています。
アンダーワールドの代表曲の一つ「REZ」も、そんな典型的な曲の一つでしょう。
安定して鳴り続けるリズムと変化し続ける電子音の絡み合いが、聴く者に快感を与えていると思います。
こんなことも頭の片隅に置いて、さあ電気のクロージングを楽しみましょう!
fujirock 2016 神様お願いです。一度で良いので苗場で見せて下さい。
fujirock 2016 そろそろ2日目の「and more」が気になったりしてないかい?
そろそろ2日目の「and more」が気になり始めませんか?
ほぼ出演者が発表になり、グリーンも横並びにアーティストが並んでいるにも関わらずの「and more」
これを妄想を肥大化させても大概当ては外れるものですが、今年は20周年ですよ!スペシャルなサプライズを期待してしまいませんか?
そうです。これもフジロック。
肩透かしだろうと思いつつも、夢のようなサプライズを期待してしまうものです。
今までだってなかったわけじゃなりません。
2010年のクリス・カニンガムが2日目にスペシャルゲストとしてエントリーしていたのをお忘れじゃないでしょうか?
(かなり)願望込みですがw、期待できるのはフィッシュマンズでしょう。
しれっと出演が決定している原田郁子も妙に匂うし、縁の深いオオヤユースケやUAも出演するとあれば、フィッシュマンズのお膳立てと深読みしても悪くないと思います。
ただ、お祭り騒ぎとしては若干弱い気もしないではないですが、フィッシュマンズがエントリーするなら、やっぱり嬉しい。
変にフィッシュマンズの記憶の肥大は好きではないですが、祭りであれば「楽しければ何でもあり」的な気持ちになれるのでありかも。
いっそのことフィッシュマンズオールスターズで、色んなゲストを交えてやってくれたら楽しいですね。
もう一つ願望込みで期待したかったのが、P-ファンクです。
G・クリントン総帥の自伝が発売になることも決まり、ごくごくw一部で盛り上がっているPーファンク熱。
レッチリとのセッションもフジロックの語り草になっているという意味では、ここは一つ16年の来日も決定しているとオフィシャルで言い放っている総帥に頑張ってもらいたい。
祭り感満載の総帥ならではのステージで、そこに再びレッチリと共演なんてあれば、それはそれは20周年らしくなるでしょうw
と、俄然盛り上がりましたがツアーデータから不可能なことが発覚。残念ですねw。
個人的に今年の裏テーマとして勝手に決め込んでいる「お世話になりました枠」というのがあります。
Gラブ、ベン・ハーパー、クーラシェイカーなど、アーティストは何も悪くないけど、安易にブッキングしてるなぁ…と、つい思ってしまうほど、何度も出演しているアーティストに敬意を表している傾向があります。
一時期、清志郎、ケミカルブラザース、プライマルスクリーム、浅井健一、ミッシェルガンエレファントの元メンバーなどは、ほぼ失笑まじりに「まあ、出るよね」と言われていたのは事実ですw
とするならば、「and more」に、ありがとう的なアーティストが来てもおかしくない。
通常に考えれば、日本のアーティストでお世話になっているアーティストとくれば、渋さ知らズ、ソウルフラワーユニオン、くるり、あたりか。
しかし、渋さはヨーロッパツアー中、ソウルフラワーはクロージングで出演済み。
となると、個人的には嬉しくないけど、祭りならばスカパラか…
小沢健二が来ても祭り感あるけどなあw
個人的には、1 フィッシュマンズ 2 小沢健二 3 ソウルフラワーユニオンと予想します。
とにかく、あまり期待せずに、それでもワクワクしながら発表を待ちましょう!
七尾旅人「エアプレーン」 この曲が想起させるもの。歌詞に潜むものを探る行為を
七尾旅人「兵士A」を7月7日(七尾の日)にリリース!
「911ファンタジア」
2000年代の日本のロック?を語る上で、この作品は一つの金字塔になっているのは間違いないと思います。
個人的にはダントツで衝撃だったし、恐らく日本のロック史的にも時が経てば経つほどに「911」の存在は大きくなるでしょう。
それくらい衝撃的な作品だったし、音楽の枠組みさえ超越しかねない”力”が、この作品にはあったと断言します。
狂ったように聴き、狂ったように人に勧めました。
しかし、いざ人に勧めようと思うと、この作品をオススメするのに相応しい言葉がありませんでしたw
「音楽なのかも定かじゃないし、放送劇?インプロヴィゼーション?とにかく凄いんだよ」
「911」がどれくらい凄いか言葉に出来ないから凄い。人に勧める度に、そう思えるくらいでした。
その頃の七尾旅人のライヴは常軌を逸していました。
さだまさしばりにMCが長く、サンプラーとガットギターを駆使した破天荒なライヴは正に唯一無二でした。
取り憑かれたように楽曲を壊しては再構成する激しいライヴのせいか、どこか精神錯乱のような状態の時がしばしばあり、その時は何故かその集中力や緊張感などの激しさ故か、常連の客(コーヤマくん)をいじり倒すという奇行も恒例になっていました。
カヴァーも沢山披露し、その対象は華原朋美からルー・リードまで振り幅が激し過ぎて怖いくらいだった。
内緒ですが、その頃のライヴをほぼ全て録音していて、特に内橋和久とデュオのライヴは今でもよく聴くくらい。
結構、その時期の音源は自分の中で相当な宝物になっています。
その七尾旅人が新作に着手していて3枚組になるといった戯言のような噂もあり、どんなものになるんだろう?とずっと気にし続けてきました。
それが「兵士A」などというライヴ映像作品としてリリースされるとは思いもしませんでした。
誰が想像しただろう?このようなリリースを。
心地よく裏切られた気分で一杯ですw
リリース前の段階で、既に僕はこの新作に満足してしまっています。
こんなに嬉しい裏切られ方は、そうそうないからです。
そして、七尾旅人の断髪をして変わり果てたw姿を激写したスナップショットに鳥肌さえ立っていました。
時代の空気。
そんなものを射抜く人は天才の部類と思っていますが、「兵士A」という言葉は、確かに今の日本を射抜いていると思います。
戦争が始まるとか、そういうネガティヴな破壊願望とは少し違う、戦争前夜のような緊張感や窮屈さ、何かとんでもないことが突発的に起きて、根こそぎ人々がその渦に巻き込まれてしまいそうな悪寒のようなものが空気中にばらまかれているような、そんな空気。それが今。
このタイトルが雄弁に語る何か。それに激しく揺さぶられてしまいます。
七尾旅人が放つ言葉と旋律と声。
それがどんな形風に「兵士A」で舞い、弾けるのか?
過剰な期待ばかりが先に立ってしまって、自分を抑えるだけで手いっぱいです。
「エアプレーン」は、あの「エアプレーン」で、「赤とんぼ」は、ZAZENBOYSや坂田明と共演した時、怒涛のインプロを披露したあの「赤とんぼ」なのでしょうか?
きっと期待は良い意味でしか裏切られないでしょう。
この作品が、また「911」のようなマイルストーンになる期待だけが、今僕の中で膨らんでいます。