沈黙は金なり ジャズでもクラシックでもない Thomas Bartlett ‘Shelter‘
トーマス・バートレット。
ジャズにもクラシックにもトラッド系にも、どこにも属しているようで、どこにも属していないようで。
その不思議な立ち位置でありながら、ダヴマン(鳩男)名義、ニコ・ミューリーとの共作、そしてソロなど様々な名義で話題作を放つ天才ピアニスト。
そのピアニストがコロナ禍に突如放ったのが、この「シェルター」
サブスクで頻繁に聞いたので魅力溢れる作品なのは知っていたけれど、まさかのアナログリリースには小躍りしました。
同時代的でありつつ、ノスタルジックな香りも感じる作品だっただけにアナログで聞きたいと思っていただけに、結構即ポチに近いノリで購入。
でもって、この作品こそアナログで聞く価値ありな一枚で、買って良かったなあとw
これからアーティストはサブスクやCDとアナログの違いに意識的である必要が、一定の好事家にアピールするには必要と思っているのですが、まさにトーマスはそこに意識的なんじゃなかろうかと。
アナログの持つ柔らかな音質、クリアな音ではなくて幻想的でモノラル的な耳触りのようなものに特化している感じがあって、いわゆるサウンドマニアとは違うアプローチがこの作品にはジャストフィットしています。
無音部分の濃密さ(ふざけて言っているわけじゃなく)、有機的な無音部分に耳をすますアナログならではの快楽に満ちた一枚です。
遠くのラジオからかすかに聞こえる美しいピアノの調べと言った感じでしょうか、人が絶えた世界で遠くから聞こえる音楽という希望みたいなものを感じました。
トーマスのピアノはそもそもクラシックよりで荘厳ではありつつも、どこか歪んだものをはらんでいるのが魅力ですが、これにもそんな一瞬がいくつかあって、音が飛んだような時空が歪んだような瞬間があります。
多分ちょっとしたアレンジで、いつもの静かな作風の中にちょっとしたアグレッシヴさを感じたりしました。そここそが彼の魅力なんだと思います。
耳をすまして聞くからこそ気づく細やかなくすぐりが快感な傑作だと思います。