パンチだよ、全員集合!2022
お祭りが始まる。
パンチが新作をリリースする時は、当然どんちゃん騒ぎでないといけません。
何せ、今世紀を代表する天才バンジョープレイヤー、クリス・シーリがスペシャリスト集団パンチブラザースを率いて、さまざまなジャンルを横断する作品を世に放つのですから、それは盛大に祝わないといけませんw
前作が自らの原点を見つめ、トランプ政権に異議を唱えるセルフプロデュースアルバムだったので、次は過激な実験作になるだろうと踏んでいました。
クリスのソロ作が、とても個人的な挑戦作だっただけに1、アグレッシヴに攻めた作品になると思ったのですが、今回はトニー・ライスという先人のトリビュート作。
コロナも多少影響したのでしょうか?
なかなかメンバーが集まり、曲を練るという状態ではなかったのかもしれません。
とはいえ、若手実力派オールスター集団であるパンチが単なるトリビュートですます訳がありません。
ここは続報、先行公開となる新曲など情報を集めながら年明け一発目の祝砲を待ちましょう。
当然、ツアーも開始されるようなので、それらの映像なども見たいものです。
コロナ明けはパンチの新作で盛り上がりたいものです。
音のプレゼント John Hiatt with The Jerry Douglas Band - "All The Lilacs In Ohio"
前作「Eclipse Sessions」」で、声の張りも曲も老いた印象を受けていたJohn。
新作はジェリー・ダグラスと共演の一報に正直、老いた者同士がケミストリーを期待して作っちゃう類の企画色の強い一枚くらいに思って期待していませんでした。
ところが、これが見事なケミストリーを起こしていて、ゴナーズ時代の元気さと言うと語弊がありますが、歳を重ねた上でのあの頃に近い勢いを感じる見事な作品に。
バックがJohnを盛り立て、Johnの見事な歌の数々がジェリー達を輝かせるという、実に痛快な演奏を見せてくれています。
この歳を取っても奇跡が起きるし、年齢と共に味わいを増すあたりが伝統芸能の素敵なところだと改めて思いました。
ライヴ見てみたいですねえ。ここはバラカンさんあたりに頑張ってもらいたいです。
隠れた名盤候補筆頭 Bonny Light Horseman
アメリカーナを定義付けするという難題を自分に課したりしているのだけれど、これに対する答えはないと思っていて、移民たちによってアメリカでグチャグチャにかき混ぜられたミクスチャーミュージックというしかないでしょう。
だからこそジャズやカントリー的なものが筆頭に上げられるのでしょうが、個人的にはヴァンダイクパークスやランディ・ニューマン、リトルフィートあたりは原点の一つなんじゃなかろうか?とぼんやりとですが思っています。
そういう意味でもノンサッチはアメリカーナの震源地と言って良いと思っています。
今回猛烈に推したい隠れた名盤『Bonny Light Horseman」は、そんなアメリカーナに括られるのだろうけど、かなりアイリッシュトラッドやカントリー寄り。
ただ何処か音の耳触り、音響的なところに重きが置かれていることもあって、懐かしいのにどこか新しい印象が残ります。
そういう意味で、私はチーフタンズの「ロングブラックヴェイル」に近いものを感じたのですが、更にグランジやHiphopを通過した21世紀らしい感性を感じました。
特に不勉強で知らなかった女性Voのアナイス・ミッチェル。この人が素晴らしい。
全く知らなかったので、過去の音源を焦って聞いてみたのだけれど、リッキー・リー・ジョーンズに近いロリータヴォイスですが、彼女と同じくフォークや戦前のジャズ、ワルツ、カントリーなどを好む多彩な感性の持ち主らしく、まさにアメリカーナのど真ん中という印象でした。(自分比)
カントリーやブルーグラスの短所と言っていい能天気さを取り除き、極私的、内省的感性を持ち込んでいるところが新世代アメリカーナらしさとでも言っておきたいです。
とにかく駄曲なし、サウンドに無駄なし、効果バッチリな名盤です。
なかなかお目にかかれない完成度だと思います。リサ・ハニガンが絶賛するのも頷ける、久々に興奮する内容と出会いのある一枚でした。
激おすすめです。
ワーカホリック クリス・シーリ、完全ソロ作リリース決定!
今一度言っておきますが、クリス・シーリを天才と呼ぶことに全く躊躇いはありません。2012年に、あのマッカーサーフェローを受賞したと云う、つまり公然と天才と認定されたとほぼ同じ扱いを受けているからですw
その活動のスピードと広さは、あたかもプロレス最強説を実践しようとするプロレスラーのようなブルーグラスの伝道師めいた活躍は、知る人であれば自明の理です。
そんなクリスもコロナの騒ぎの中で、活動を自粛せざる得ないことが沢山あったと思うのですが、そんな中でもパンチのストリーミングライヴを敢行、新作を録音しているという一報もあり、ファンを喜ばせてくれました。
と、こ、ろ、が、我がノンサッチから放たれたニュースは更に驚くことにクリス初の完全ソロ作リリース!
バッハのソナタのあれはソロ作じゃないの?と思ったのですが、プロデュースもクリスと云うことなんでしょうか?
以前、カーネギーホールで完全ソロ公演を敢行、その映像もさることながら、絶賛の嵐に、日本でもNHKホールとかでやってくれないものだろうか?と、目を泳がせたものですが、ついに皆で集まれないならソロでいいや!って感じでのリリースでしょうか?
新曲の映像も発表され、その孤高の狂気めいたクリスの勇姿に見惚れてしまいました。
なんとNYの古い教会を改修してスタジオにしたらしく、そのスタジオから放つ第一弾がクリスの完全ソロ作とのこと。てことは、ワーカホリックのクリスのこと、次々とアルバムをリリースするんでしょうか?ワクワクしないではいられません。
クリスファミリーともいうべき数々のアーティストを巻き込んで、爆裂するクリスの才能をとめどなく垂れ流ししてもらっても全然こっちは構いません、むしろ、やっちゃって欲しいものです。
Review: Chris Thile Is the God of Small Sounds - The New York Times
思いつくままにアメリカーナ その1 スペースカウボーイOST
コロナでEDMとか消えた気がするなあ…などと思っていたら、ダフトパンクが解散してビックリしましたw
ダフトパンクって解散するんだ…と変に感心してしまったりして。
群れになって馬鹿騒ぎって音楽の大きな楽しみ方の一つだったと思うけれど、それが時代的にそぐわなくなったと言う気がします。
これからは内省的な音楽がしっくりきてしまうのだろうなどと思ったりします。
そんな時代に、アメリカーナとかオルタナカントリーは結構はまる部分が多いみたいで、テイラー・スウィフトの新作などは正しくドストライクだったりしました。
「これこれ」みたいな。
で、そうなるとアメリカーナって何?と自問自答します。
B・メルドーやB・フリーゼルなど、勿論ジャズもアメリカーナとしてはかぶっている部分があるので、アメリカーナの人気をジャズくくりにしたがる傾向があるように見えるのですが、そもそもアメリカーナってジャンル越えの流れの一つと思っているだけに、ジャズに入れ込もうとすること自体が流れに反しているように思えます。
と言うか、さらに「じゃあ、アメリカーナって何?」とw
個人的には発火点は、C・イーストウッドのこのサントラだったように思えます。
2000年公開の映画で、作品自体もラスト以外は素敵でしたが、それ以上にサントラがメチャメチャ好きでした。
メルドーはその頃大好きでしたが、それ以上にW・ネルソンのP・サイモンカヴァーが出色の出来で、何度も繰り返し聞き、W・ネルソンがK・ロジャースとは別人であることに突然気がついたりしたものです。
そもそもイーストウッドがジャズマニアなので、ジョシュアやメルドーは想定の範囲内ですが、そこにW・ネルソンを入れ込んでくる辺りが、当時新鮮だったと思います。
そして、そこから「テアトロ」でW・ネルソンの魅力にはまり、「テアトロ」と対を成す「レッキングボール」、T・ボーン・バーネット、ギリアン、ルシンダとずぶずぶとはまり込んでいったような気がします。(結構記憶が曖昧です)
そもそもサントラってボーダレスなものなので、イーストウッドがアメリカーナを意識していたとは思えません。むしろ、徐々に気になってきていたアメリカーナの波を感じつつ、このサントラにその文脈を勝手に感じていたというのが正しい気がします。
アメリカーナは基本的にアメリカで育ち、作られた音楽、ジャズ、ブルーグラス、カントリー、ロック、下手をすればテックスメックス辺りや現代音楽をも視野に収める自由なジャンルレスなものだと思います。
そこにはヒップホップの台頭も大きく影響していると思いますが、それはまた別の機会で。
個人的には、このOSTに参加しているジョシュアやメルドーが在籍するノンサッチこそアメリカーナの中心地の一つでしょう。
メルドーもクリス・シーリもエミルー姉さんも、ウィルコもジョシュアもノンサッチ。
それ以外にも魅力的なアメリカーナのアーティストが沢山いるのがノンサッチ。
このアルバムを始点として、B・メルドーへ行き、そこからパンチやエミルーとたどりながらアメリカーナを再考してみたいと思います。
では、個人的に衝撃だったウィリーのP・サイモンカヴァーを。サントラでのピアノはメルドーです。それにしてもウィリーの声の美しさときたら…
待望の再プレス? Sarah Jarosz / Build Me Up From Bones
4月にサラの傑作が再プレスされるようです。
なぜかジャズ方面からの評価もあったらしく、サラの名前を1ランク上に上げた2013年リリースの傑作。
アナログ盤は、その後市場から消え、なかなか売りにも出なくなっていました。
カラーヴィニールじゃなくても良いんですけど…w
でも再プレスは嬉しい限り。買っちゃいそうw
収録曲でもあるディランのカヴァーを。今まで聞いた数多くのディランのカヴァーでも屈指の名カヴァーです。
沈黙は金なり ジャズでもクラシックでもない Thomas Bartlett ‘Shelter‘
トーマス・バートレット。
ジャズにもクラシックにもトラッド系にも、どこにも属しているようで、どこにも属していないようで。
その不思議な立ち位置でありながら、ダヴマン(鳩男)名義、ニコ・ミューリーとの共作、そしてソロなど様々な名義で話題作を放つ天才ピアニスト。
そのピアニストがコロナ禍に突如放ったのが、この「シェルター」
サブスクで頻繁に聞いたので魅力溢れる作品なのは知っていたけれど、まさかのアナログリリースには小躍りしました。
同時代的でありつつ、ノスタルジックな香りも感じる作品だっただけにアナログで聞きたいと思っていただけに、結構即ポチに近いノリで購入。
でもって、この作品こそアナログで聞く価値ありな一枚で、買って良かったなあとw
これからアーティストはサブスクやCDとアナログの違いに意識的である必要が、一定の好事家にアピールするには必要と思っているのですが、まさにトーマスはそこに意識的なんじゃなかろうかと。
アナログの持つ柔らかな音質、クリアな音ではなくて幻想的でモノラル的な耳触りのようなものに特化している感じがあって、いわゆるサウンドマニアとは違うアプローチがこの作品にはジャストフィットしています。
無音部分の濃密さ(ふざけて言っているわけじゃなく)、有機的な無音部分に耳をすますアナログならではの快楽に満ちた一枚です。
遠くのラジオからかすかに聞こえる美しいピアノの調べと言った感じでしょうか、人が絶えた世界で遠くから聞こえる音楽という希望みたいなものを感じました。
トーマスのピアノはそもそもクラシックよりで荘厳ではありつつも、どこか歪んだものをはらんでいるのが魅力ですが、これにもそんな一瞬がいくつかあって、音が飛んだような時空が歪んだような瞬間があります。
多分ちょっとしたアレンジで、いつもの静かな作風の中にちょっとしたアグレッシヴさを感じたりしました。そここそが彼の魅力なんだと思います。
耳をすまして聞くからこそ気づく細やかなくすぐりが快感な傑作だと思います。