ロジャー・ウォーターズ ピンクフロイドでもプログレでもなくシンガーソングライターとして…の考察
生涯ベストのアルバムを時折考えたりしますが、その中にピンクフロイドの「ファイナルカット」が恐らく入ります。「狂気」でも「原子心母」でもなく「ファイナルカット」です。
よくこの話をするとプログレファンやフロイドマニアが僅かに顔を歪めたものです。
大概よりによって「ファイナルカット」かよ、と顔に書いてありました。
ポップマニアならシド・バレットをどう思ってんだよ?的なニュアンスでしたし、プログレマニアからはフロイドなら「狂気」や「原子心母」が出てくるとはなから思っている節がありました。
でも、個人的にはフロイドをリアルタイムで聞いた「ファイナルカット」ほどリピートし、心動かされたアルバムはないのだからしょうがありません。
ジャケットはヒプノシスではないし、ほぼロジャーのソロアルバムと言っていい「ファイナルカット」は鬼っ子っぽい雰囲気が今まであったのです。
徐々にその評価も変わりつつあるかもしれませんが、少なくとも20世紀中は、そのような評価が結構普通にあったように思います。
トランプ政権が生まれて、2017年、その反動でロジャーは四半世紀ぶりにアルバムを発表したのです。
それが本作。
プロデューサーはレディオヘッドなども手がけたナイジェル・ゴルドリッチ。
バックにはゴルドリッチやジョーイ・ワロンカー、ロジャー・マニングが参加していて、プログレ畑と言うよりはポップ畑の人たちが心躍らせる布陣です。
なんとはなしに聞いていなかったけれど、ロジャー親派としては無視は出来ない。
アナログが安値で出ていたので、ようやくきっちり向き合って聞きました。
一聴してロジャーのアルバムと分かる。しかも「ファイナルカット」の頃と変わらないサウンドコラージュもあるし、叙情的なメロディ、シンプルな弾き語りに泣きのフレーズがあって、続けざまにプログレ的な扇情的な演奏が続き、ちょっとしたカタルシスを感じさせる構成もロジャー節と言って良い。
やっぱりロジャーでしょwと思わずほくそ笑んでしまう。
そもそもロジャーのソロを語る時、プログレと言うジャンルやプログレとしてのピンクフロイドの延長線上で語るのに少し無理があるのかもしれないと思います。
私見ですがロジャー・ウォーターズを聞いていると、この人の根っこはシンガーソングライターなのではないか?と思うことがあります。
名曲「Wish You were here」のカヴァーに弾き語りが多いのは、そこに弾き語りが一番似合う楽曲であることを多くの人が見抜いているからではないでしょうか?
世が世であればロジャー・ウォーターズはSSWとして大成したんじゃないかと思う時が結構あるのです。
ドラマチックだったり、テーマが前面に打ち出された歌詞、繊細で美しいメロディ、かなりな左の思想。これらの要素を鑑みてもロジャーはフォーク歌手に近いものがある。
本作においても、もちろんプログレチックなサウンドやメロディ、トラックもあるけれど、相も変わらず身をよじってしまいそうな美しくも繊細な楽曲が印象に残ります。
トランプ政権に猛反発したロジャーが重い腰を上げて作らなければならなかった作品。
この出どころからしてフォークっぽさを感じませんか?
「ファイナルカット」以降のロジャーの作品にはどこかフォークくささを感じることが結構あって、本作ではその印象を一層強く感じました。
どこかフォーク臭く、ディランに近いものさえ感じてしまう程です。
そして、個人的にはそこに強い魅力を感じる作品でした。
一連のソロ作同様「ファイナルカット」から連綿とつながるものがあり、そこが魅力でもあります。つまりは純度の高いSSWロジャー・ウォーターズの作品なのだと思います。
アナログはDLコード付き。強くおすすめです。(今更ですがw)
フロイドの中でも最も人気のある曲の1つですが、これもギターソロを除けば、どこかフォークっぽいと思うんですけどw