この歌を作ってくれたのだから、一生食べていける権利がある Silvia Perez Cruz
長年音楽を聴き続けていると、「こんな素敵な曲を作ってくれたのだから、一生食べていける権利くらいあげたい」と思うことがありますw
一人毎日一円でも良い。その歌を愛するリスナーが毎日1円、月30円程度で払い続ければ、少なくとも食べていけるのでは?と考えることがあります。
例えばD・ボウイの「ライフ・オン・マース」、ビーチボーイズの「駄目な僕」
こんな美しい曲を作ったのだから当然の権利だと思ったりします。
すれっからしになり、歳と共に感性も鈍化するのでしょうか?そこまで打ち震える感動に出くわすのはなかなか稀になります。
そんな中、ここ数年でこの歌くらい震えた歌はありません。
2020年リリースされたシルビアのアルバム「farsa」に収録された歌ですが、映画のために書かれたようで、2018年にはネット上で視聴可能な歌でした。
映画の挿入歌か主題歌になった歌で、PVには映画のシーンが幾つか挿入されています。
しかし映画の挿入歌としては失格かもしれません。これだけ存在感があり、聴く者を惹きつけてしまうのは映画音楽としてはダメなんじゃないでしょうかw
ここまで歌声と共に震えw、様々なイメージや感情を沸き立たせる歌は珍しい。
古風なメロディの集積のようでありながら、アグレッシヴな演出もあり、シアトリカルな歌に仕上がっているのもシルビアのアーティスト性故でしょう。
わずか2分程度の短い歌ですが、シルビアのアーティスト性や世界観が詰まった代表作の一つと言いたい一曲です。
こだわりつづけることのアーティスト性 イーファ・オドノヴァン「ネブラスカ」
イーファ・オドノヴァンの傑作2nd「マジックアワー」にはデラックスエディションがあって(結構入手困難)、そこにスプリングスティーンの「ネブラスカ」のカバーが収録されています。
世間的には「ボーン・イン・ザ・USA」の大ヒット後の超激渋アルバムとして、「ザ・リバー」と並んで黒歴史のように見られていますが、ここにこそボスの本質があると言っても過言ではありません。
その「ネブラスカ」に執拗にこだわっているのがイーファです。
ボーナスディスクでのカバーはありがちですが、どうやらアルバム丸ごとカヴァーをしてバンドキャンプに公開しているという話で、その思い入れの強さに俄然興味が湧きます。
新作でのJ・ヘンリーとのタッグも明らかに成功ですし、これからの活躍が楽しみです。
「ネブラスカ」の画像があったので記録として。
素晴らしいカヴァーです。
多分、パフォーマー寄りの人 Mitsuki ”Laurel Hell”
ついにMitsukiの新作がリリース。
フジロックのステージを観て、あ、この人はパフォーマーだと直感しました。
日本の体操着のようなシンプルな衣装でヘタウマなパフォーマンスをしながら歌うMitsukiの姿はルードでありながら、妙にエロく、ライヴでありながパフォーマンスの色が濃いものでした。
デイヴィット・バーンやアドリアーナ・カルカニョット、P・ゲイブリエルのような、演奏だけでは済まさない何かがステージにはありました。
これは新作が待ち遠しいなと思っていたら、突然活動休止宣言。
スマッシュヒットの後だけに、異例の活動休止にがっかりしつつも、新作がどんなものになるのか楽しみになりました。
そして待望の新作「Laurel Hell」をリリース。
いまどきの80’sテイストをまといつつ、ニューウェイヴ系のダークさや繊細さが同居していて、期待に違わぬ好みのサウンド。
早くリリース後のライヴ映像がアップされないか楽しみで仕方ありません。
久々に全方位的に発信されるマテリアルで楽しむアーティストだと思っています。
ちょっと目が離せませんね。
脇役の美学では終わらせない イーファ・オドノヴァン
名バイプレイヤーって誉め言葉でしょうか?
ちょっと微妙に感じることがあります。
天才クリス・シーリやサラ・ジャローズやサラ・ワトキンスとのI'm with herなどでも活躍するイーファにとっては、さほど誉め言葉ではないように思えます。
優れた歌い手でありながら、引き立て役になってしまうのは、彼女の性格などがあるのでしょうか?
そんなイーファの新作は、名バイプレイヤーでは終わらせない彼女の意気込みが見え隠れします。
まずはプロデューサーにジョー・ヘンリーを起用。バックにジョーの息子やジェイ・ベルローズ、デヴィッド・ピッチなどジョーファミリーを従えながら、あの独特なジョーカラーに染まっていないあたりに彼女の実力が垣間見えます。
またブルーグラスに収まらず、アイリッシュカラーが仄かに香るのもイーファらしい。
またジョープロデュースもあって、トラッド系に収まらない、現代的なポップソングとしても機能しているのが魅力。
「クリスの手下に甘んじないわよ!」という気概を感じる一枚。
フレーズの魔術師 ガブリエル・カハネ
サブスクに音楽の中心がシフトしてから、更に自分の聴く音楽が混沌としていて、自分でもどこを主軸にしているかよく分からなくなっています。
音楽のホワイトアウト状態というか、酩酊状態というか、そんな感じです。
最近のヘヴィロテはファナ・モリーナ、拳兄弟、シルヴィア・ペレス・クルス、キャロライン・ショウ、R・ウォーターズ、イールズそしてカハネ。
正直脈略もあったものじゃないですw
ゲイブリエル・カハネは、ノンサッチ文脈から浮上してきたブルックリンのSSWとのことですが、インディークラシックよりなのか、現代音楽に近いようです。
y musicとかとも交流があるようで、作品を聴くとSSWというより歌入りの現代音楽という印象を強く持ちます。
かつてヴァンヘイレンを称して、エディはギターテクというよりギターフレーズを作る天才という記述に強い印象を持っているのですが、カハネはピアノフレーズを作る天才のように思えます。
SSWの典型のような美しく繊細だけど、聞き流れてしまいそうなメロディですが、抜群に挿入される不協和音のようなピアノフレーズが耳に残ります。
ちょっと矛盾しているようですが、余りにも美しい不協和音が癖になるんです。
ノンサッチのアドで良いジャケットだなあと思っていた「Book of Travelers」
サブスクで仮聴きしてスルーしていました。不覚です。アナログをゲットしておけば良かったと後悔していますが後に立っていませんw
新曲がこれまた素晴らしく、新作ではクリス・シーリやイーファ・オドノヴァンも参加しているようなので楽しみで仕方ありません。
また楽しみなノンサッチャーが出てきて、うれしいやら困ったものやらです。
ずっと聴いていたくはない快作 Park Jiha
世界的評価を得ながら、不祥事もあり映画を撮れなくなり、失意の中早逝してしまった韓国の映画監督キム・ギドク。
観ればダークになるし、世界観は1mmも共感できないし、全く好きではない。
なのに新作が出れば観ずにはいられない不思議な映画監督でした。
Park Jihaの作品はキム・ギドクに似ています。
韓国のちょっと冷たい暗いイメージを全身に纏ったようなサウンド。緊張感は尋常ならないものがあり、アルバムを聴きとおすとドッと疲れてしまいます。
日本の笙にも似た楽器を操るマルチミュージシャンだそうで、サックスなどと共演しながら独自の確固たる世界を確立しています。
これをずっと聞いていたら目つきが変わってしまうんじゃないかと本気で思うような、ダークでディープなサウンドですが、時折聞きたくなる不思議な魅力があります。
韓国の現代音楽やジャズの情報はなかなか入ってこないせいで、リアルタイムで追っかけられていませんが、気が付けば新作リリースが間近でした。
しかもジャケットがキャロライン・ショウと酷似しているのが興味深い。
案外触発されていたとしても不思議ではありません。
衝撃的な出会いとなった「Communion」から、どちらかというと聞きやすくなったような感じもあります。
先行配信された新曲を聴くに、世界観は変わっていませんが、かなりこなれた感じがあって、映像喚起力と絶え間ない緊張感はあい変わらずです。
新曲を聴く限り新作も期待して損はなさそうですね。同じくドイツのGlliterbeatからのリリース。商業的にもそれなりに成功したのかもしれません。
楽しみにして聞きたいものです。
新しい音楽をお求めの方はぜひ。
天才は忘れた頃にやってくる Caroline Shaw
以前からクリス・シーリはアメリカ公認の天才だから安心して欲しいと言い続けていますが、案外天才はいたるところにいるようです。
今回ご紹介する天才は、キャロライン・ショウさんですw
きっと幼い頃は学級委員をしていたにちがいないと思わせる理知的なルックス。
この人もかのマッカーサー・フェローズを与えられたアメリカ公認の天才さんでした。
アタッカトリオの「オレンジ」でその名前を意識するようになりましたが、「オレンジ」は、クラシックよりでちょっと私にはその天才ぶりはピンときませんでした。
とはいえ、最年少でマッカーサーフェローズを与えられた天才です。
クリス以上に天才なのでは?と思って、Soパーカッションとの共演作を聞いてみたのですが、この作品がのけぞるくらいに素晴らしい作品でした。
クラシックというより現代音楽。しかも、ほぼ歌以外のバックトラックはパーカッションによってメロディを奏でています。なのにメロディアスかつアヴァンギャルドというもうミラクルのような作品です。
まずはシガーロスやボンイヴェールに通じる抒情的なメロディを堪能して下さい。
現代音楽とは思えないメロディアスな音世界にうっとりすること請け合いです。
数回楽しんだ後は、アグレッシヴなパーカッションの演奏に耳を傾けてみれば、キャロライン・ショウが只者じゃないことに気が付くはずです。
ノイジーだったり、アヴァンギャルドだったり、はたまたキュートな打楽器の乱れ打ちに驚かされること請け合いです。
そもそも「ナローシー」というミニアルバムで手応えを感じて、アルバム制作に至ったという経緯からもわかるように、既に世界観がしっかり構築されています。
これは本当に素晴らしい。
ヨンシーやニコ・ミューリー、yミュージック、ルーファス・ウェインライトあたりが好きな方なら、まず気に入ること間違いありません。
クリスと同等レベルの天才がまたもや登場したもので、また天才かよ!と嬉しい悲鳴ですw